公開日: 2025/03/07

PVB芯鞘複合繊維でニードルパンチ不織布を高強度化[信州大学・繊維学部]

接着性樹脂PVBを鞘に持つ芯鞘複合繊維の混繊で、芯樹脂を劣化させず不織布を高強度化

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SUMMARY

本技術は、合わせガラスの中間膜などに使われる接着性樹脂ポリビニルブチラール(PVB)を鞘に持つ芯鞘複合繊維(断面が芯と鞘の二層構造になった繊維)を、ニードルパンチ不織布(短い繊維を針で刺し通して絡み合わせた不織布)に混繊する技術です。信州大学・冨澤錬 准教授らが開発し、熱処理により繊維どうしの交点にPVBの融着点を選択的に形成することで、通気性を保ちながら不織布のヤング率・引張強度を大幅に向上させます。ジオテキスタイルや自動車内装材などへの応用が期待されています(特願2025-012279、公開特許公報 特開2025-174842)。

PVB芯鞘複合繊維によるニードルパンチ不織布の高強度化 について

PVB芯鞘複合繊維の断面模式図。鞘部にPVB(接着材成分)、芯部にPET(材料成分)を配置した繊維構造

図:PVB芯鞘複合繊維の断面構造(鞘=PVB/接着材成分、芯=PET/材料成分)

  • 土木・建築資材、電気製品、自動車内装材など、不織布に高い機械的強度が求められる用途は多く、繊維同士が物理的に絡み合うニードルパンチ不織布(短繊維のシートに多数の針を刺し通して繊維を交絡させ作る不織布)は、その中でも強度に優れた不織布として利用されているが、さらなる高強度化が求められていた。

  • 既に実用化されている方法として、低融点PETを鞘・高融点PETを芯とする芯鞘複合繊維をヒートプレスして繊維同士を融着させる方法があるが、芯のPETまで溶け出すと不織布の形状維持が困難になることや、芯PETの熱劣化への懸念という課題があった。

  • 本技術では、主にフィルムとして使われてきた接着性樹脂ポリビニルブチラール(PVB)を繊維化し、芯鞘複合繊維の鞘部に配置。PVBは芯部のPET(あるいは他の樹脂繊維)より低い温度で軟化・融着するため、芯の樹脂を劣化させることなく、繊維どうしの交点だけを選択的に接着できる。

  • この芯鞘複合繊維を樹脂繊維(PETなど)のウェブに混繊してニードルパンチ・熱処理することで、通気性を保ちながら不織布のヤング率・引張強度を大幅に向上させる不織布を実現した。


比較

PVB芯鞘複合繊維混繊(本技術) vs 同一樹脂芯鞘ヒートプレス(従来法)

項目 PVB芯鞘複合繊維混繊
(本技術)
同一樹脂芯鞘ヒートプレス
(従来法)
ヤング率(無処理PET比・実施例)
約129
倍(特許実施例で実証)
安定した数値化が困難
引張強度(無処理PET比・実施例)
約2.6
倍(特許実施例で実証)
データに乏しい
芯樹脂の熱劣化リスク 低い(PVBが低温で融着) 懸念あり(同一樹脂を加熱)
不織布の形状維持 良好(芯PETは溶融しない) 芯PET溶出で維持困難な場合あり
通気性(空隙の維持) 選択的融着で空隙を維持しやすい 全体圧縮で低下しやすい

※ 数値は公開特許公報(特開2025-174842)実施例1(樹脂繊維:芯鞘複合繊維=80:20、100℃・10分の熱処理)における、芯鞘複合繊維を含まない比較例(PET単独)との比較値です。混繊比率・熱処理条件により数値は変動します。


EFFECTS

技術の効果

  • 芯部の樹脂を劣化させずに繊維交点を選択的に融着 → 不織布のヤング率を実施例で約129倍に向上

PET繊維のみの不織布とPVB芯鞘繊維混合不織布の顕微鏡観察像・X線CT画像の比較。PVB混合により繊維交点に融着点が生じている様子

図:PET繊維のみ(a)とPVB芯鞘繊維混合(b)の顕微鏡観察像(上段)とX線CT三次元画像(下段)。PVB芯鞘繊維混合不織布では繊維交点に融着点が見られる

  • ヤング率向上と同時に引張強度も実施例で約2.6倍に向上。低歪領域で急激に応力が立ち上がる明瞭な降伏挙動を確認

  • 樹脂繊維と芯鞘複合繊維の混繊比(重量比0:100〜90:10)を変えることで、強度・通気性・伸長性のバランスを調整可能

  • 芯部の樹脂はポリエステル系・ポリカーボネート系・ポリアミド系・ポリオレフィン系など幅広い樹脂に対応


KEY POINTS

技術のポイント

  • フィルム用途が中心だった接着性樹脂PVBを繊維の鞘部に配置するという新しいアプローチで、繊維状に成形して用途を拡大
  • 芯鞘複合繊維の鞘部(PVB)の体積比率は10〜50体積%が好ましく、強度と融着性のバランスを最適化できる
  • ヒートプレスによる力学的な接着に着目し、繊維どうしの接着強さを定量評価する独自の試験方法を考案
  • 特願2025-012279(公開特許公報:特開2025-174842)として特許出願済み。効果は査読論文(Journal of Textile Engineering, 2024)でも確認済み

USE CASES

想定される用途/実績例

  • ジオテキスタイル(土木・建築用の高強度・高耐久不織布資材)
  • 自動車内装材(天井材、フロアカーペット、オプションマット、ラゲージ表皮・トリム表皮などの立体成型部材)
  • 吸音材・クッション材(強度と通気性のバランスを活かした部材)
  • 寸法安定性が求められる産業資材(ハンドリング性・耐久性の向上が見込まれる用途)
  • 接着性樹脂への機能性材料添加による更なる機能付与(試作・応用検討段階)

FAQ

よくある質問

ポリビニルブチラール(PVB)とはどのような樹脂ですか?

PVB(ポリビニルブチラール)は、合わせガラスの中間膜、プリント基板用接着剤、船舶用コーティング材などに広く使われている接着性の樹脂です。分子内に極性基(ブチラール基・水酸基・アセチル基)を持ち分子間力が強く働くため接着性に優れる一方、非晶性で分子が配向結晶化しないことから、これまで繊維として実用化された例はほとんどありませんでした。本技術は、このPVBを芯鞘複合繊維の鞘部に配置し、繊維状に成形して不織布の高強度化に応用するものです。

従来の芯鞘繊維によるニードルパンチ不織布の高強度化には、どのような問題があったのですか?

既に実用化されている方法として、低融点PETを鞘、高融点PETを芯に配置した繊維をヒートプレスし、繊維交点を融着させる方法があります。しかし、芯と鞘が同じ種類の樹脂(PET)であるため、鞘を溶かすための熱が芯にも伝わりやすく、芯のPETまで溶け出して不織布の形状維持が難しくなることや、芯PETの熱劣化により物性が安定しにくいという課題がありました。

本技術ではどのようにして不織布を高強度化するのですか?

信州大学・冨澤錬 准教授らは、芯部にPETなどの樹脂繊維、鞘部に接着性樹脂PVBを配置した芯鞘複合繊維(鞘部の体積比率10〜50体積%)を開発しました。PVBは芯部の樹脂より低い温度で軟化・融着するため、芯の樹脂を溶かすことなく、繊維どうしが交わる点(交点)だけを選択的に接着できます。この複合繊維を樹脂繊維のウェブに混繊してニードルパンチ処理し、その後PVBが融着する温度で熱処理(ヒートプレス)することで、不織布全体を高強度化します。

本技術で不織布の強度はどれくらい向上しますか?

公開特許公報(特開2025-174842)の実施例では、樹脂繊維と芯鞘複合繊維を重量比80:20で混繊し100℃・10分間の熱処理を行った不織布は、芯鞘複合繊維を含まない同等の不織布(PET単独)と比較して、ヤング率が約129倍、引張強度が約2.6倍に向上しています。混繊比率を高めるほど強度は向上する傾向があり、通気性はある程度維持されることも確認されています。

低融点PET鞘・高融点PET芯を用いる従来技術との違いは何ですか?

両者とも「鞘を融かして繊維どうしを接着する」という発想は共通していますが、材料設計が異なります。従来技術は芯と鞘が同じ種類の樹脂(PET)であるため、鞘を融かす熱が芯にも伝わりやすく、芯の劣化や形状崩れが課題でした。本技術は芯(PETなど)と鞘(PVB)に異なる樹脂を用い、鞘の方が明確に低い温度で融着するように設計しているため、芯の樹脂を劣化させずに交点だけを選択的に接着できる点が特長です。両技術は「熱で繊維を接着し不織布を高強度化する」という目的を共有していますが、材料設計の違いにより本技術は芯樹脂の熱劣化リスクを抑えられる点で優位性があります。

PVB芯鞘複合繊維を混繊する設計のメリットは何ですか?

芯の樹脂を劣化させずに交点を接着できるため、不織布の高強度化と形状の安定性を両立できます。また、樹脂繊維と芯鞘複合繊維の混繊比率(重量比0:100〜90:10)を調整することで、強度・通気性・伸長性のバランスを用途に応じて制御できる点も特長です。芯部の樹脂もPET以外(ポリカーボネート系・ポリアミド系・ポリオレフィン系など)に対応できるため、既存の不織布製造プロセスへの適用範囲が広いことも利点です。

どのような応用が想定されますか?

高い機械的強度と寸法安定性が求められるジオテキスタイル(土木・建築用の不織布資材)や、天井材・フロアカーペット・ラゲージ表皮など立体的な成形が必要な自動車内装材への適用が特に有望と考えられています。また、強度と通気性のバランスを活かした吸音材・クッション材への応用や、接着性樹脂に新規材料を添加することによる更なる機能付与も期待されています。

共同研究や技術相談はどこに問い合わせればよいですか?

本ページ下部の「お問い合わせフォーム」、またはお問い合わせページよりご連絡ください。株式会社 信州TLO が、産学連携による製品開発・共同研究・ライセンス等について、最適な形でご提案いたします。芯鞘紡糸やニードルパンチ不織布の量産化・条件検討にご関心のある企業様との連携も歓迎しています。

基本情報

研究者
信州大学 繊維学部 先進繊維・感性工学科 助教 冨澤 錬 ※役職は出願当時のもの
発明の名称
ニードルパンチ不織布およびその製造方法
出願番号
特願2025-012279(公開特許公報:特開2025-174842)
出願人
国立大学法人信州大学
発明者
冨澤錬、吉田照哉、鈴木汰周
論文
Tomisawa R., Yoshida T. Effects of poly(vinyl butyral)/poly(ethylene terephthalate) sheath-core composite fibers on the structure and tensile strength of a needle-punched nonwoven. Journal of Textile Engineering, 70(5), 66-71 (2024).
論文URL
https://doi.org/10.4188/jte.240329a
開放特許情報データベース(INPIT)
https://www.plidb.inpit.go.jp/html/HTML.L/2026/000/L2026000916.html
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